2016年9月22日木曜日
【メモ】『君の名は。』大ヒットの理由を新海誠監督が自ら読み解く
18:00『君の名は。』大ヒットの理由を新海誠監督が自ら読み解く(上)
http://diamond.jp/articles/-/102660
“少し困ったことになったな、と思っています。なぜなら、今回の作品がヒットしているのは「たまたまだ」という感覚が強いからです。若い人たちが求めている巨大な需要のような穴があって、そこにこの作品が良いタイミングでうまく入り込んだ。本当に幸運が重なった結果だと思うのです”
“いつも同じ形の穴が開いているわけではないし、いつも求められているタイミングで作品を出せるわけでもありません。作り手としての技術や実力が急に上がるわけでもないのです”
“アイデアの源は、自分自身の中にあるものだと思います。自分が興味あることとか、謎として残っていることとか、それがおそらく中心にあります”
“端的に言えば、人と人とのコミュニケーションの問題です。「どうして人と人というのは、気持ちを通わすことができるのだろうか」、あるいは「気持ちを通わすことができないのだろうか」と。関係が断然されてしまったのに奇跡的につながるシチュエーションがある一方で、それがつながらないままのこともある”
“そうした謎のようなものが以前から気にかかっており、テーマとしてずっと扱ってきました。作品の本質は変わりませんが、それをどういう語り口で描くのかは、作品ごとに変化しています。私の場合、発想のヒントを得るために古典を読むこともあります”
“今回の作品は、本質の部分で言えば、出会えないはずの二人の出会いを描いているものです。男女が入れ替わることで物語は始まるのですが、入れ替わりは出会うための仕掛けであって、本当は別のものでも良かった。ただ、分かりやすいキャッチーな入り口を用意したかったのでこうしました。男女の入れ替えによって必然的に生じるコミカルな部分もありますからね”
“自宅にあるのは、現代語訳された万葉集や古事記などいくつかの古典作品であって、本がずらりと並んでいるわけではありません。6歳の子どもがいることもあって、一番めくるのは「日本昔話」ですね”
“実はそれらを読んでいくと、カテゴリーというものがはっきり見えてくるのですよ”
(例:貴種流離譚、異類婚姻譚、地下世界を思い起こさせる物語)
“こうした物語のルーツを知ると、「なるほど、物語ってパターンなのだ」と。人の共感するところは昔からあまり変わらないものだと気がつきました。過去作品の中には、こうした昔話の構造をヒントにするものもあります”
“『君の名は。』は、昔話の構造ではなく「夢と知りせば」という和歌がインスピレーションを与えてくれました。夢から覚めてなぜかさみしいという感情は、小野小町のいた平安時代から、いやそれ以前から今にいたるまで人の持つ共通の感覚だろうと思ったのです”
“そこで、「朝、目が覚めると、なぜか泣いている」と物語を始めることで、観客にも「それは分かる」という気持ちになってもらえるのではないかと考えました”
“自然災害については、意図して取り入れたというわけではありません。むしろ、必然的に出て来たという方が正しい感覚です。2011年の東日本大震災をモチーフにしたわけではないのですが、それ以来、日本社会はきっと変わったのでしょうし、私たちの考え方も変わったのだと思います”
“「明日は我が身になるかもしれない」。少なくとも私はあの日以来ずっとその気持ちを持ち続けています。意識しているのか、意識していないのかの違いはあっても、多くの人にそういう気持ちが根底にあるのだと思います”
“それが映画のベースになっているので、一つのモチーフとして自然に生まれてきたのです。取り立てて災害を中心に語ろうと思ったわけではなくて、すっと入ってきたというわけです”
“2016年に公開が決まっていたので、2016年のスマホにしたいと思いました。そう考えると、LINEでやりとりをするのが日常になっているだろうと。私たちが普段使っているSNSと同じようなものを登場人物も使っているように設定しました”
“それも、自分と地続きの世界を見てほしい、映画の登場人物を我がこととして見てほしかったからです。そのためにはスマホの使用が必然だったというのが、シンプルな理由ですね”
“女の子っぽい男の子の何が悪いのか。男の子っぽい女の子の方が魅力的ではないか。今はそんな感覚が強いのではないでしょうか。そのため、今回の作品では、男女が入れ替わることで、お互いが魅力的になり、入れ替わる前よりもちょっとモテたりするシーンも入っています”
“良くも悪くもと言いますか、日本の観客は日本のアニメーションに対して優しい、そういうものだと受け入れています。ただ、国内外の動画配信作品がこれだけ世の中に出回り、リッチな映像があふれている中において、私は日本のアニメーションの貧弱さのようなものが気になっていました”
“そのため、スタッフと「なるべく手をかけて、リッチな画面にしていきたいね」という話を常にしてきました。多くの制作費を投じて作るハリウッド映画やアメリカのドラマに比べると、日本のアニメーション制作には限られている部分がある。それでも「同じ1800円を払って見てもらう映画なのだ」と。ハリウッド映画にはないものをどう用意して持ち帰ってもらえるかを常に考え続けてきました”
“とはいえ、私たちも映像制作の期間が1年間しかありませんでした。限られた期間で、限られたスタッフでできることは限られている”
“そこで、多少なりともプラスの動きの要素を入れたくて、例えば、星のまたたきや水のきらめきなど、特に自然表現における光の変化を意識して取り入れました。これには、アニメーターの労力を使わずとも、デジタル関連部署の力で表現できるという面もありました”
『君の名は。』大ヒットの理由を新海誠監督が自ら読み解く(下)
http://diamond.jp/articles/-/102665
“考えていたのは、往年の映画好きの方々に見てもらって満足してもらうような、形の良さや完成度の高さを目指すよりも、10代、20代の若い観客に向かって、フレッシュに見えるものにしたいということでした”
“10、20代の人が「こんなアニメーションは初めて見た」とか、「こんなに面白い映画を初めて見た」とか、そう響くものにしたいと”
“ただ、「一度見終わった直後にもう一度見たくなる」、つまり複数回鑑賞してもらえるような作品を目指していました。特に若い子たちに響くためには「過剰なもの」にしようと。詰め込み気味の映画にするということですね”
“一度見ただけで観客が消化しきれない映画を作ることはそこまで難しくはありません。ただし、情報が多すぎて難解となり「映画が分からなかった」では、元も子もありません。一度で「あー、面白かった」と十分に満足してもらえるものに絶対しなければならなかった。その上で、もう一度、主人公の瀧や三葉の声を聞きたいとか、RADWINPSの音楽を聴きたいとか、そう思ってもらえるようにしたつもりです”
“また、若い人に届けるために、映画の鑑賞時間を1分でも短くしようと工夫しました。最初の脚本の段階では合計116分あったのですが、それを大幅に削って、107分にまで縮めました。それも、今の若い人にとって娯楽とは映画だけはないですし、映画館にいる時間は1分でも短い方がいいと感じていたからです”
“短い時間の中に、ぎゅうぎゅうにこぼれ落ちる寸前ぐらいまでいろいろなものをたっぷり詰め込む。そこで「俺はこれが響いた」「私はこれが響いた」などと、それぞれが感じたものを持って帰れるようにする。そうしたフックをたくさん詰め込んだものにしたのです”
“若い観客の多くは、まだ自分の好みが定まっていません。何が好きなのか分かっていないからこそ、その材料を提供するような作品にしたいと思いました。楽しみ方はそれぞれでいい。音楽に感動してくれた人がバンドを始めたり、背景に感動してくれた人が画を描き始めてくれたり、そんなことにつながると本当に嬉しいですね。その一つに「聖地巡礼」みたいなものがあると思うのです”
(主題歌が4曲も入っていることについて)
“ええ。「面白くても散らかっていない」と言いますか、面白いのが大前提で「詰め込み気味だけど、形は整えられていてその中に収まっている」というイメージです。そのため、映画の見方がある程度定まっている人や、好みが定まっている年配の方にとっては「少し違う」と苦言を呈されてもおかしくはありません”
(ゲーム会社での経験について)
“そこで強烈に学んだのは、「君たちは物を作りたくて入ってきたかもしれないが、ゲームは1本8000円なり1万円なりする商品であり、それを顧客に買っていただいているのだ」という教えです”
“私はゲームのパッケージを作る仕事をしていました。「何がこのゲームで斬新なのか」を考えて、キャッチコピーを書いたり、パッケージに使用するための画像を選んだりしていました。それには、ゲームを分かっていなければならないため、何度も何度もゲームをプレイしました。と、同時にパッケージのビジュアルも担当し、店頭用のオープニングデモ映像も作っていました”
“デモ映像は1、2分という短い中で、ネタバレはせずに、その作品の魅力を詰め込まなければなりません。しかも、フレッシュに見せなければならないし、面白く見せるために、ある種のウソをつかなければならない。映画の予告編のようなものですね”
“これは貴重な体験でした。自己満足なゲームであってもいけないし、単に面白いゲームを作ればいいわけではない。何が面白いのかを言語化し、商品をパッケージとして見せ、映像で伝え、ゲームの魅力を伝える。そうしなければ買ってもらえない。こうしたことを徹底的にたたき込まれました”
(ゲームのクオリティチェックの仕事を任された時の失敗談)
“自分が同じようにものづくりをする立場になると分かりますが、一枚の画を描くのにしたって、ものすごく複雑な過程をたどってできるわけですね。文章で言えば、何度も何度も推敲したような状態でようやく人に見せるわけです”
“そのため、現場には、現場のプライドと理屈がある。全身全霊で作っているのに、「ちょっと面白くないですね」といった言い方がいかに相手を傷つけるのかを理解しました。もし同じことを言うにしても、作り手に伝えるときは、むき出しの言葉で表現してはいけない、それがいかに暴力的な行為なのかを強烈に学んだ体験でした”
“今回の作品においては、脚本の「開発」を徹底的にやりました。脚本会議では、東宝の川村元気プロデューサーやスタッフに脚本を読み込んでもらい、意見を出してもらいました。毎回、初めて映画を見た人の視点で、観客の気持ちがどう流れていくかを徹底的に考え尽くす。チームで顧客の気持ちをシミュレートし続けるという作業だったと思います”
“とはいえ、スタッフの意見も一人一人違いますから、最終的には平均値みたいなものを出さないといけない。ときには「これがいいと思う人?」と多数決で決めることもありました”
“ただ、川村さんは「最後は監督のやりたいことをやらないとだめだ」と言ってくれました。票が割れたときは、監督の私に全て引き寄せる。それも、監督の好みやフェチが入らなければなかなかうまくいかないからだということでした。一人の人間の感性で、1本の背骨みたいなものを作品に差し込む。そのため、最終的には自分がやりたいこと、自分の好みの方向に全部引き寄せました”
“つまり、チームで一度徹底して観客になって、最後は全部自分の好みに引き寄せる、そのような作り方をしていきました”
“三葉がお米をかんで自身の唾液とまぜて、升に入れて自然発酵させる「口噛み酒」はその一つです。他にも、例えば、瀧が年上の女性である奥寺先輩と一緒に三葉を探しに行くところですね。これらは、単に私の好みなわけですよ(笑)”
“ただ、無造作にやると不快なものになりかねない。瀧は、三葉という別の女の子のことを見ているのに、なぜか奥寺先輩という他の女性が付いてくる。下手をすると無神経な展開になりかねませんので、そう思わせないための「回路」をきちんと作る。その点、脚本会議で「これは無神経ですよ」とか「気持ち悪いです」とかダイレクトに伝えてもらったことで、だいぶ助かりましたね”
“最初から最後まで少年少女の物語にしなければ、とずっと制作してきましたが、どうしても作り手は、何か自分を重ねられる人物を入れたくなってしまいますよね。宮崎駿監督の『風の谷のナウシカ』だと、宮崎監督が「ユパ様」なのでしょうが、奥寺先輩にもそういうところがあるのかもしれません”
※当エントリ(を含むメモ記事)の日付はメモを時系列に並べるため、実際のエントリの公開日(2016年10月25日)ではなく、元の記事の公開日にしてあります。時刻まで分かっている場合は(元の記事と公開日時が同じというのもおかしな話なので)その30分後、分からない場合は18時に設定しています。
http://nanamine-galley.blogspot.com/2016/09/Shinkai-2016-09-22.html【メモ】『君の名は。』大ヒットの理由を新海誠監督が自ら読み解く