前回の雑記と似たような内容にはなりますが、80年以上前の本に「最近の若者は喫茶店に小遣いを費やして読書をせん(出版社も本を売りたいならあんな青年クラブは潰せ!)」みたいなことが書かれていて笑いました[1]。
以下、青空文庫の平田禿木『趣味としての読書』より引用します[2]。
“最近某大学の卒業論文口頭試問の席へ立会つて、英文学専攻の卒業生がそれぞれ皆立派な研究を発表してゐるのに感服した。主なる試問者は勿論その論文を精査した二三の教授諸氏であつたが、自分も傍から折々遊軍的に質問を出して見た”
“「理窟は抜きにして、ディツケンスの何んなとこを面白く感じましたか、コンラツドの何んなとこに興味を覚えましたか」と訊くと、「一向に面白くありません、少しも興味を感じません、論文を書く為めに、唯一生懸命に勉強しただけです」と云ふ”
“「では、三年間に、別に何か読みましたか」と訊くと、別に何も読んでゐないといふ、如何にも頼りない返事である。これは一つには学生諸氏の英語の読書力の薄いのに依るのであらうけれど、一つにはまた、今日の若い人達の間に如何に趣味として読書が閑却されてゐるかを示すものである”
“今日ほど読書に不利な時代はない。自動車は走り、飛行機は飛び、映画、トオキイは全盛、音楽でもヂヤズや音頭の騒々しいもののみが幅を利かしてゐるので、人々は一刻も静かに落ち著いてゐる暇がない。若い人達が手軽にその閑を消される喫茶店なるものの流行もまた、少からずこの読書の妨げをなしてゐる”
“この頃本の売れないのは、全くこの喫茶店の跋扈に由来するのである。今まで若い人達が書物に費してゐた小遣銭の大半は、この喫茶店なる安価で、便利な、時にはいかがはしい青年社交倶楽部に奪ひ去られて仕舞つてゐるのである”
“出版家連がもつと本を売らうといふなら、彼等は宜しく同盟して、この青年倶楽部撲滅を計るべきだと思ふ”
この頃本の売れないのは、全くこのソシアゲの跋扈に由来するのである。今まで若い人達が書物に費してゐた小遣銭の大半は、このソシアゲなる高価で、危険な、時にはいかがはしい青年快楽遊戯に奪ひ去られて仕舞つてゐるのである。
参考文献
[1] 平田禿木, 『書窓雑筆』, 双雅房, 1935.
[2] 平田禿木, “図書カード:趣味としての読書,” 青空文庫, https://www.aozora.gr.jp/cards/000343/card2398.html, 2001年7月2日作成.
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